その件は結婚してからでもいいでしょうか

チリンチリン。

お店のドアがなる音がした。

ビール片手に美穂子はなんとなく振り向く。

「先生っ」
視界の隅に、先生の怒りに満ちた顔が入った。

「おいっ」
先生は大股で歩み寄ると、美穂子の手からビールのグラスを取り上げた。

小島さんが「あ、漫画家さん」と声を上げる。

「帰るぞ」
先生は、美穂子の腕を引っ張り上げた。

「嫌ですっ」
美穂子は抵抗する。

これで帰ったら意味がない。漫画家になんか、なれるわけがない。

「ちょっと、漫画家先生!」
小島さんが立ち上がった。酔いも手伝ってか、随分と強気だ。

「美穂ちゃんは、覚悟を決めてここきてるんです。先生がこの子のこと抱いてあげないから、苦渋の決断をしたんですよ!」

先生は小島さんを無視。

ビールに手を伸ばそうとする美穂子を抑えて、無理やりに立たせようとする。

「好きじゃないなら、保護者みたいな顔してこの子を構うのは、やめてください!」
小島さんが真っ赤な顔で叫ぶ。

ノリくんは最初あっけにとられていたが、この状況を楽しみ始めたのか、ニヤニヤしている。

「うるさい、小島さん! 好きじゃないなんて、言ってない」
先生はそう言い捨てると、美穂子を引きずり上げた。

小島さんが「お?」という顔をする。ノリくんと顔を見合わせた。

「帰るぞ」
先生はそうい言うと、美穂子を連れて店を出た。

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