その件は結婚してからでもいいでしょうか
「離してー」
美穂子は先生の腕の中でジタバタとあばれた。
目黒の夜。肌寒い空気。空にはまん丸なお月様が見える。
そのまま店の前に待たせてあったタクシーに乗せられて、あっという間に先生のマンションにまで連れ戻されてしまった。
「嫌いっ」
美穂子は酔っ払って、フラフラしてる。
「外で飲むなって言っただろ」
「先生には関係ないでしょーっ」
先生に半ば抱えられて、エレベーターに乗る。
「俺の言ったこと、全然わかってねー」
先生は今日も言葉使いが悪い。ため息とともに悪態をついた。
「嫌い嫌い嫌い」
美穂子は先生にだらんと体を預けて、うわごとのように続ける。
「嫌いなのは知ってるって。男が嫌いなんだろ?」
「嫌いー」
「わかったわかった」
先生は自宅のドアを開くと、そのまま玄関に美穂子を下ろす。美穂子は玄関でうずくまった。
「自分を大切にしろって言ったのに」
先生は美穂子の靴を脱がせる。
「なんであんな野郎としようなんて思うんだよ」
「だって漫画家になりたいし」
美穂子は口をへの字にしてスネ始める。
先生は美穂子の覚悟を台無しにした。