その件は結婚してからでもいいでしょうか
第五章
先生の好きな人
二人の間に、何もなかったような朝。
「先生、ごはんですよ」
「ん、ありがと」
ペン入れの続きをしていた先生が、立ち上がってテーブルの前にあぐらをかいた。
「焼鮭かあ。いいなあ」
先生が呑気な声を出す。
「お茶いれましょうか」
「お願いします」
先生は「いただきます」とちゃんと手を合わせて、食事を始めた。
昨日の事について何も言わないのは変な感じ。
でも、先生はどことなくほっとしているじゃないだろうか。
わたしとエッチしちゃわなくて。
「今夜出かけるから」
先生が言った。
「そうですか」
美穂子はこたえる。
「八代さんと、話があって」
「はい」
そこでやっと先生は美穂子に視線をあわせた。
「仕事だよ」
「わかってます」
美穂子は頷いて、少し疑問に思った。
変に言い訳めいて聞こえるのは、気のせいだろうか。
「美穂ちゃんの仕事は、順調だって伝えておく」
「何もできてませんけど」
美穂子は語気を強めた。「だってわかんないままだし」
先生が黙る。
「あっ、ぜんぜん、いいんですけど」
美穂子は慌てて、否定した。
「わたしは今日、アシ仲間と約束してて、お昼出かけます」
動揺して、すぐに話題を変更する。
「わかった」
「ごはん、用意しておきますから、食べてくださいね」
「うん、ありがと」
先生はやっと美穂子に笑いかけた。