その件は結婚してからでもいいでしょうか
午前中のうちに家事を片付けて、美穂子はお昼すぎに部屋を出た。
先生はずっと仕事をしている。美穂子と話をしないように、あえて仕事に熱中しているんじゃないかと疑いたくなるほどの集中力だった。
マンションからちょっと行ったところのカフェ。先生が前「おしゃれ」と称したような、目黒川沿いのカフェだ。
「桜、もうすぐだねえ」
テラス席に座っていた小島さんが言った。
今朝早く、美穂子は小島さんに電話をかけた。せっかく紹介してくれたノリくんだったのに、場をぶち壊して帰ってしまったから謝りたかったのだ。
「で、やった?」
肘をついた小島さんが訪ねた。
「やってないです」
「やってないんかい!」
小島さんは呆れたような声を出した。
「なにをちんたら、してんだか!」
「はあ」
美穂子はうなだれた。
小島さんは腕を組む。「あの先生、たたないんじゃないの?」
「たたない?」
「そう、たたない」
「なにが?」
「あれが」
美穂子はさっぱりわかんない。一体どういうことなのか。
「ああこれだから二次元に生きてきた女子はなあ」
小島さんがため息まじりに言った。
「男はあそこがたつわけ。エッチするとき」
そう言われて、美穂子は目を丸くする。
「そんな馬鹿な」
「女は濡れるでしょ?」
「ぬ、濡れる?」
美穂子は口をあんぐりと開けてしまった。