その件は結婚してからでもいいでしょうか

「電話がかかってきたら、なんていうか、先生がスーッと冷めたっていうか」

小島さんが「ふむ」と眉間にしわを寄せる。

「それで、先生は電話に出て、それでおしまいです」
「戻ってこなかった?」
「戻ってきませんでした」
美穂子はがっくりとうなだれた。

「わたしのことを好きじゃないから、きっと我に返っちゃったんだと思います」

小島さんがコーヒーを一口飲む。それから「あやしいわ」と言った。

「なにがですか?」
「その八代って人よ。きっと先生と肉体関係がある」

美穂子は「え!」と声をあげた。

そんな、まさか。あの八代さんと?

「抱いて欲しいって言ってる女の子をこれからやろうってときに、そんな電話一本で冷めるわけがなもの。だいたい電話に出ることだってしない。着信の『八代』っていう名前を見て、我に返ったんだわ」

美穂子は信じられない。

だって八代さん、結婚してるもの。

「それが終わってんのか、現在進行形かで、また状況は変わってくるけど。あの先生、美穂ちゃんのこと、相当気になってるっぽいから、このまま押せ押せでいいんじゃないかな? また『プツン』って理性が切れて、襲ってくるよ」

「襲いますかね?」
「襲うだろうねえ」

小島さんは自信ありげに頷いた。

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