その件は結婚してからでもいいでしょうか

時が経つのも忘れて、原稿に没頭した。

昨日、先生がベッドで美穂子にしたことを、鉛筆で再びなぞり描く。

ドキドキする。経験してるのとしてないのでは、描いてる時の気持ちが違う。
これが先生の言ってたことなんだ。

スカートをたくし上げるところまで描いて、筆が止まった。

美穂子はしばらく原稿をじっと見つめたが、何もでてこない。あたりまえだ、次にどうやるか知らないのだから。

いつのまにか外は真っ暗。時計を見るともう夜の十時だ。実に五時間もの間、作業に没頭していたことになる。

「はあ、もう」
美穂子は目を閉じた。

あのとき電話が鳴らなかったら、この原稿もかけたし、先生と気まずくもなってない。
勢いでもいいから、最後までしてほしかった。

「そういえば」
美穂子は目を開いた。

そういえば、先生もエロシーンを描く練習をたくさんしてたっけ。最初に見たときは、びっくりして放り投げてしまったけれど、参考になるかも。

美穂子は立ち上がって、自分の部屋に置いてある先生のスケッチブックを持ってきた。膝の上にのせて、ペラペラとページをめくる。

このスケッチブックは、素晴らしい。先生の絵の変遷がよくわかる。

すごく努力をして、今のスタイルを確立したんだ。

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