その件は結婚してからでもいいでしょうか
「あれは」
先生は気まずそうに頭をかく。「ちょっと冷静にならなきゃって、思ったから」
「なんでですか?」
「いや、激情に任せて美穂ちゃんの初めてをもらっちゃ、いけないんじゃないかって思ってさ」
「……別にいいですよ?」
美穂子が言うと、先生は驚いてこっちを見る。
「美穂ちゃんは、天然で仕掛けてくるな」
「は?」
先生は「はあーっ」と大きくため息。
それから「煩悩と戦うのは、並大抵の大変さじゃないな」と呟く。
「まあ、俺が大切にしたかったんだよね。美穂ちゃんのこと、大事にしたいからさ」
「ありがとうございます」
美穂子が言うと、先生はまじまじと見つめてくる。
「俺の言ったこと、わかってる?」
「何か言いました?」
「だから、大事にしたいって言っただろ」
「アシスタントだからですよね?」
先生は笑う。
「違うよ、鈍感」
「えっ?」
美穂子は声を上げた。
「俺は、美穂ちゃんのこと、女の子として大事にしたいって言ってるんだけど」
「ん? それって?」
「まだわかんない?」
先生は美穂子の手を握る。
美穂子の心臓が、ボカンッと爆発する。握られた自分の手を見て、徐々に脈拍が上がってきた。
はっと顔を上げると、すぐそばに先生の顔。