その件は結婚してからでもいいでしょうか
「美穂ちゃんは、俺のことが好きなんだよね?」
先生の低い声。
あ、また。
ぞわぞわする。
美穂子はぎゅっと目をつむって「そ、そう、かもしれません」と言う。
「かも、なの?」
「か、かも、です」
「昨晩は『先生が好き』って言ってたのに?」
「い、言ってましたっけ?」
「あー、ずるいなあ。また忘れてる」
先生が耳元で笑うと、熱い息がかかる。
やばい。すごいぞわぞわ。
「俺はね、今日、早く帰って来たかったよ。美穂ちゃんに会いたかった」
美穂子は目を開ける。
先生の瞳が、すぐそばで美穂子を見つめている。
「好きだよ」
そう言った。
「え……」
美穂子は耳を疑った。
だって、そんなことあるわけ……。
「冗談ですか?」
「違う、ほんと」
「でも私のこと対象外だって、言ってたじゃないですか」
美穂子が言うと、先生は「聞いてるなあ」と笑う。
「すいません、聞こえちゃって」
「あれはさあ、八代さんが冷やかすから」
先生はもう片方の手で、美穂子の髪を指に絡めて弄ぶ。ちょっとだけ先生の指が首筋に触れた。
ゾクゾクする。
「『好みだから助けたんだ』って、八代さんがしつこいからさ。誰でも図星を言い当てられると、気まずいよな」
「図星なんですか?」
先生がにやりと笑う。
「そんなの、あったりまえだろ。男なんて、みんな、そんなもんだよ」