その件は結婚してからでもいいでしょうか

「桜先生のお宅ですよね」
山井さんの声が聞こえる。

ああ、なんか。

美保子は目をつぶった。

山井さんがすごく嬉しそう。
憧れの先生に初めて会ったんだもん。
そりゃ嬉しいよね。

「桜先生って、男性の方だったんですね」
「……山井さん、ですよね。いつもありがとうございます」

先生はちょっと動揺してるような感じ。

「名前覚えててくださったんですね。感激です」
「あたりまえですよ。山井さんの仕事には、本当に助けられています」
「……先生はお一人でこちらに?」
「は、はい」
「ご結婚は?」
「独身ですけど」
「これは、運命ですね」

山井さんがそう言うと、またガタガタとうるさくなった。

なにやってんの?

「やっ、ちょっ、山井さん?」

先生の動揺した声が聞こえてきた。

「着てください!」
まるで悲鳴のような先生の声。

美保子の目はまん丸になった。

まさか?

「わたしが女に生まれてよかったって、今日ほど思ったことはないです」
「は、はあ?」
「先生が男でも女でも、なんならパンダでも、全力でお使えする気持ちではいたんですが、先生が男性であるなら一番喜ばせてあげられると、常々思っていました」
「へ?」

美保子は憮然とした表情で立ち上がった。

山井さん、なにやってんの!

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