その件は結婚してからでもいいでしょうか
「夢でもなんでもいいですから、降りてください、そこから」
「えー、美穂ちゃん興ざめじゃん」
先生は上半身をなんとか起こすと、手を伸ばしてベッドの毛布を掴んで引っ張った。
それからほぼ裸の山井さんの体にぐるりと巻きつける。
「山井さん、とりあえず、水でも飲みましょうか」
そう言った。
毛布を巻かれて、目をぱちくりとさせる山井さん。
「あ、あれ?」
下敷きにしている先生と美穂子を見比べる。それからほっぺたをつねった。
「まさか」
ジャンプするみたいに、先生の上から降りる。
毛布を握り締めると、急激に青ざめていくのがわかった。
「まさか、夢じゃない?」
「夢じゃないです」
先生は頭をぽりぽりとかく。
「はじめまして、桜よりこです」
「きゃーっ!」
部屋に響き渡る、山井さんの悲鳴。
「すっ、すいませんっ。失礼をっ」
床に額を擦り付けて、山井さんは土下座した。
「大丈夫ですから」
先生はどうしたらいいのかわからないのか、ちらちらと美穂子を見てくる。
そんな「たすけて」って顔をされても、わたしもわかんないよー。
「服、着ませんか?」
「ですよね」
山井さんは這うようにリビングへ出て行き、脱ぎ散らかしていたサマーセーターとロングスカートをはいた。
それから振り向いて、美穂子の顔をまじまじと見つめる。
「で、なんで、美穂ちゃんがここにいるの?」