その件は結婚してからでもいいでしょうか

「それはその……部屋がないよ」
先生が慌てる。

「美穂ちゃんと一緒で構いませんから」
山井さんは断固として引かない。

「わたし、先生のアシスタントをしてもう三年。美穂ちゃんよりずっと先生のことわかってます」
「はあ」
先生は押されている。圧倒されている。

山井さんの「桜先生愛」は、半端じゃなかった。

断って!

先生に目で訴えたが、だめかも。

「わかりました。じゃあ、ありがたく」
とうとう、先生は白旗を上げてしまった。

「やった!」
山井さんはぴょんと跳ねて、美穂子を見る。

「よろしくねー」
「ははは」

美穂子はもう笑うしかない。
これから山井さんも一緒って……せっかく先生と両想いになれたのにぃ。

「じゃあ、荷物とってきますね」
山井さんはきた時と同様、アシ部屋のドアを通って、あっと言う間に去っていった。

嵐の後。
かすかなお酒の香り。

横を見ると、先生は呆然としている。
それから視線に気づいて美穂子を見下ろした。

眉があがる。

「複雑になっちゃったじゃないか」
先生が不満を口にした。「付き合ってるって、言いたかった」

美穂子は肩をおとした。
「わたしもですけど……。山井先生、桜先生ラブなんですよ。心から愛してるんです。新参者のわたしが付き合ってるって知ったら、絶対怒るし」
「ラブって言っても、作品にだろ?」
先生はため息をついた。
< 133 / 167 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop