その件は結婚してからでもいいでしょうか
「それはその……部屋がないよ」
先生が慌てる。
「美穂ちゃんと一緒で構いませんから」
山井さんは断固として引かない。
「わたし、先生のアシスタントをしてもう三年。美穂ちゃんよりずっと先生のことわかってます」
「はあ」
先生は押されている。圧倒されている。
山井さんの「桜先生愛」は、半端じゃなかった。
断って!
先生に目で訴えたが、だめかも。
「わかりました。じゃあ、ありがたく」
とうとう、先生は白旗を上げてしまった。
「やった!」
山井さんはぴょんと跳ねて、美穂子を見る。
「よろしくねー」
「ははは」
美穂子はもう笑うしかない。
これから山井さんも一緒って……せっかく先生と両想いになれたのにぃ。
「じゃあ、荷物とってきますね」
山井さんはきた時と同様、アシ部屋のドアを通って、あっと言う間に去っていった。
嵐の後。
かすかなお酒の香り。
横を見ると、先生は呆然としている。
それから視線に気づいて美穂子を見下ろした。
眉があがる。
「複雑になっちゃったじゃないか」
先生が不満を口にした。「付き合ってるって、言いたかった」
美穂子は肩をおとした。
「わたしもですけど……。山井先生、桜先生ラブなんですよ。心から愛してるんです。新参者のわたしが付き合ってるって知ったら、絶対怒るし」
「ラブって言っても、作品にだろ?」
先生はため息をついた。