その件は結婚してからでもいいでしょうか
「先生〜、肩お揉みしましょうかあ」
山井さんが、聞いたこともないような甘い声が、隣の部屋から聞こえてきた。
「いや、大丈夫ですよ。ありがとうございます」
そのパワーに押されてか、先生の弱々しい返事。
美穂子は超絶的に面白くない。
山井さんのアプローチを断固拒否しない先生にも、それからもちろん鬱陶しい山井さんにも。
山井さんの空っぽの机をちらっと見て、美穂子はイライラが募る。
私だって、先生の顔が見たいのに。
っていうか、わたし、両想いになったのに!
「美穂ちゃん、これ」
隣に座っていた小島さんが、自分の原稿を手渡す。
「先生に渡してきてくれる?」
小島さんが軽くウィンクする。
「うううう〜、小島さあん」
その心遣いに、美穂子は声を出して泣きたくなった。
「ありがとうございます」
「いいよ、大したことじゃないじゃん。っていうか、山井さんって相当鬱陶しい女だったんだねえ。あんなクールっぽい人が……。人は見かけによらないね」
小島さんが信じられないという顔でため息をつく。
「いってきます!」
美穂子は勢い良く席を立ち上がった。
「あ、わたしの原稿もお願いします! あと、お弁当、今日は何にしようか、考えといて」
吉田さんが言った。