その件は結婚してからでもいいでしょうか

小島さんが、すすすーっと寄ってきて、美穂子にニヤッと笑いかけた。

「朝まで、山井さん帰さないから」
「ありがとうございます」

小島さんが真剣な目をして、美穂子を見つめる。
「ちゃんとリサーチするんだよ。これは漫画家としてのチャンスなんだからさ」

美穂子はハッとした。

そうか、これ、仕事のためが第一だったんだ。
そういえば。
先生とイチャイチャしたいばかりで、すっかりそのことが飛んでいていた。

気を引き締めなくちゃ。
この一回で、作品をかきあげられるようにするっ。

美穂子は拳を力強く握った。

アシ部屋の玄関まで見送る。
山井さんは心配そうに、何度もなんどもこちらを見ている。

なんだかすごく申し訳なくなった。
山井さんだって、先生のこと本気で好きなのに。

「じゃあ、お仕事また来週ですね」
小島さんが明るく言った。

「そのときは宜しくお願いします」
「先生のお顔が拝見できて、嬉しかったです」
吉田さんが、まん丸の顔に、まん丸の笑みを浮かべてペコッと挨拶をした。

「今度は、みんなで一緒に飲みましょうね」
小島さんはいたずらっぽくウィンクする。

先生を見上げると、ちょっと照れているように見えた。

「先生! わたし、なるべく早く帰ってきますから」
山井さんは小島さんに相変わらず拘束されたまま、必死な様子で叫んだ。

「ゆっくりしてきてくださいね」
先生はにっこりと笑いかけた。

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