その件は結婚してからでもいいでしょうか
「じゃあ、結婚します」
部屋が再び、シンと静まり返った。
結婚?
先生、そう言った?
美穂子の脳みそは大混乱状態だ。
「俺、彼女と結婚します。それなら、山井さんは納得してくれるんですよね」
先生の声はしっかりとしていて、少しも迷いがないように聞こえた。
「この場を収めようとして、口から出まかせを……」
対して、山井さんの声は、動揺で揺れている。
「違います。彼女のことが好きで、毎日一緒にいたいんです。だから結婚します」
ぶわっと山井さんの目から、新たな涙があふれ出た。
そのままぺたんと床に座り込む。
「うそー」
小島さんが力なくつぶやいた。
「山井さん」
先生も床にしゃがみ、山井さんの目を見つめる。
「俺の作品を愛してくれて、本当にありがとうございます。あなたの働きがなければ、俺の作品は生まれません。漫画家『桜よりこ』の中には、山井さんが必ずいる」
山井さんは頬にとめどなく涙を流しながら、先生の顔を見つめ続ける。
「でも俺『与田桜助』の中には、『及川美穂子』がいるんだ」
先生は美穂子を振り返り、微笑む。
そしてまた山井さんに向いた。
「だから、彼女のこと、愛してもいいかな?」