その件は結婚してからでもいいでしょうか
「……せんせ」
美穂子は先生のそばに立った。
「どうするんですか、結婚するなんて言っちゃって」
「ん?」
美穂子を見上げる。
「結婚しようよ」
先生が笑った。
「結婚しなかったら、山井さんが『3P』って言ってくるよ」
そんな理由で結婚なんて、ちょっとなああ。
美穂子はぷうっと膨れた。
あまりにも突拍子がなくて、現実的じゃないし。
何より『結婚』なんていう、重大事をこんな気軽に口にする先生に、もやもやする。
「結婚なんてしませんよ」
美穂子はプイッと横を向いた。
「あー、ちょっと腹たってる?」
先生が立ち上がった。
ひょいっと美穂子の顔を覗き込んだ。
「立ってます。だって」
美穂子は口をへの字にした。「完全に勢いで言ってますよね。『3P』嫌だからっていう理由で」
「違うよ」
先生は美穂子の唇の端に、軽くキスをする。
「気づいてないかなあ」
そう言った。
「……何にですか?」
美穂子は、口元に笑みを浮かべている先生を見上げた。
正直、なんの事かさっぱりわからない。
先生はベッドサイドに行くと、引き出しを開ける。そして中から、小さな飴を取り出した。
「禁煙飴。美穂子に会ってから、俺、一度も舐めたいって思ってないんだ」