その件は結婚してからでもいいでしょうか
そういえば。
美穂子は思い出した。初めてこの部屋に来た時、そこらじゅうに禁煙飴の袋が落ちていた。
「俺ね、漫画家になってからタバコがやめられなくてさ。八代さんと別れたあと、さらにヘビースモーカーになって。イライラするし、ボロボロで、何回も禁煙しようと思ったんだけどさあ、いつも挫折してたんだよ。でも」
先生が美穂子を抱き寄せる。
腕にちょっとだけ力がこもってる。
なんていうか、そう、ぎゅって感じ。
「美穂子と一緒だと、タバコの事なんかひとつも思い出さなかった。毎日が本当に楽しくて、仕方がないんだよ」
先生の胸に抱かれながら、顔を上げる。
「じゃあ、禁煙成功したから、私と結婚したいってことですか?」
なんかまだちょっと、ムカつく。
「違うって」
先生が美穂子の額に軽くキスをした。
「俺の毎日が、美穂子でいっぱいになったんだよ。頭の中だけじゃなくて、体の隅々まで全部が、美穂子に占められてるんだ。どうやったらそんな楽しい日々を手放せる?」
美穂子も思わず微笑んだ。
だって、本当に先生のいう通り。
わたしの毎日も、先生でいっぱいだ。
楽しくて楽しくて、仕方がなかった。
「だからさ、これからずっと一緒にいない?」
美穂子の心はもう決まってたけれど、素直に「うん」と言うのは悔しい。
だってまだ。
エッチしてないもん。
「うーん、どうしよう。先生、エッチが下手かもしれないし」
美穂子は言った。
「なんだとお!?」
先生が可愛く睨む。
「じゃあ、とりあえず、美穂子を抱いとこうか」
先生は笑って、ひょいっと美穂子をお姫様抱っこする。
「ミギー、ちっちゃくなっちゃった?」
「すぐ成長するから大丈夫」
「絵、描きたいんですけど」
「あとでね」
ベッドに寝かせた美穂子に、先生が覆いかぶさる。
「とりあえずは、この甘い飴を舐めとかなくちゃな」
そう言って、にやりと笑った。