その件は結婚してからでもいいでしょうか
「知りたい」
答える自分の声も、なんだかかすれてしまう。
「じゃあ、結婚したら『イカ』せてあげるよ」
「えー。先生でもできるんですか?」
クスクス笑いあう。
「バカにすんな。できるさ、もちろん。ゆっくり時間をかけて、徐々にね」
先生がキスをする。
初恋みたいなキス。
でも初恋の、その先を知っているキス。
「いいですよ。次、お願いします」
先生がサイドテーブルの引き出しからペンを取りだした。
「じゃあ、約束」
美穂子の左手の薬指に、先生がペンでぐるりと円を描く。
ダイヤモンドがついた、プラチナの指輪に見える。
「美穂子もどうぞ」
先生の魔法の指が差し出された。
この指が描くと、絵に魔法がかかったけれど。
美穂子は、さっきまでの先生の指動きを想像して、どぎまぎした。
この指は、わたしの体にも魔法をかけるんだなあ。
美穂子は先生の薬指に、同じように指輪を描いた。
先生の指全部は独占でいないけれど、この薬指は永遠にわたしのもの。
「じゃあその件は、結婚したらよろしくおねがいします」
美穂子はそう言った。