その件は結婚してからでもいいでしょうか
先生がスケッチブックを開くと、ぎっしりとラフ画が描かれている。
「最初の絵はこんな感じ。線が太くて、効果線も強く描いてた。話もバトルものなんかを考えてて」
先生の長い指がページをめくる。
「で、少女漫画の繊細さに近づけようと、いろいろ描いてみた」
先生がページをめくるごとに、徐々に絵が繊細になってくる。同じ絵を何度もなんども、繰り返し描く。
美穂子は尊敬の念を込めて先生を見つめた。
「さすがです」
まるで教祖を拝むかのように、手を合わせてしまった。
「いやあ」
先生が照れたように頭をかいた。
「美穂ちゃん、これ自由に見ていいよ。自身の研究に使って」
「ありがとうございます!」
美穂子はワクワクする気持ちで、スケッチブックを手に取る。ページをめくるたびに、感銘に打たれた。
桜先生の、ラフ画ノート。垂涎の品だわ。
けれど次のページをめくった瞬間、そんな興奮が一瞬で凍りつく。
そこには女子と男子が、人には言えない、いろんなことをしている絵。
「うわっ」
美穂子は思わずノートを放り投げた。
「あ、しまった」
先生がもぐもぐしながら、慌てた。
「なっ、これ」
美穂子はショックで口が回らない。
「仕事だよ? 趣味じゃあないよ?」
先生もしどろもどろになってる。