その件は結婚してからでもいいでしょうか
第二章
恋をするってこと
漫画を読むという誘惑に打ち勝って明ける朝。
昨日、結局先生はネームばかりを描いていて、キャラクターを描く姿を見ることができなかった。
汚い三次元男子の部屋に住み続けるのは、先生の仕事が見たいから。それに尽きるのに、未だそれは叶ってない。
「おはようございます」
身支度をしてリビングに出て行くと、先生はまだ起きていなかった。
ちょっとホッとする。
カーテンと窓を開け、朝ごはんの支度をし、部屋を軽く掃除。
そろそろアシスタントが来る時間だ。美穂子も行かなくちゃいけない。
寝室の扉をノックする。
「先生、起きてください。わたし、もう行きますよ」
無音。
いいのかな、放って隣の部屋に行っちゃって。でもなあ。
美穂子はそっと扉を開いた。
カーテンが太陽があたり、部屋が温まっている。ほのかにオレンジ色の空気。
洗濯物の山だったベッドの上は、布団にくるまる先生で山ができていた。
美穂子はベッドの側に近づいて膝間付く。布団の下から黒い髪だけがみえていた。恐る恐る手を伸ばし、肩のあたりを軽くツンとつつく。
「桜先生、起きなくても大丈夫ですか? もう朝の十時ですけど」
「んーっ」
布団の下から、こもった声が聞こえた。
「わたし、いきますね」
美穂子が言うと「どこに?」と再び布団の下から声がした。
「隣の部屋ですよ。わたしの仕事の時間です」
「あ……ああ」
ボスンッと頭が勢いよく布団から出てきた。