その件は結婚してからでもいいでしょうか

それから黙々と仕事をした。

先生の原稿には、付箋で丁寧に指示がかいてある。
ここにトーンの六十一番を貼って。
ここはベタに塗って。

背景などを任せてもらっているのは、山井さんだ。
美穂子のような下っ端アシスタントが、絵をまかされるということはない。

リアルって、どうすれば描けるようになるんだろう。
先生のキャラクターは、確かにそこに本当に存在している気がするなあ。

月刊連載なので、ページ数が多い。一日で終わるわけもなく、美穂子たちは四日間ほど、アシスタント部屋にこもることになった。

途中、幾度か隣を覗きたい衝動にかられた。

今、この絵を描いてるんだよね。
行ったら描いてるところ見られるんだよね。

見たい〜っ!

でも美穂子の理性が打ち勝った。仕事をしている間は、ミーハーなことはしてはいけない。これは自分の仕事。先生の作品が出来上がるお手伝いをしている、その喜びに浸ろう。

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