その件は結婚してからでもいいでしょうか
「ありがとうございます」
とっさに美穂子が一歩前に出た。
店主の顔が「あれ?」となった。それからすぐに合点したようで「どうぞ」と美穂子に袋を手渡した。
「美穂ちゃん、先生なんて呼ばれてるの?」
小島さんが目をまん丸くして尋ねる。
「なんだか、ね」
とても「先生」なんてよんでもらえるような立場じゃないのに、ずいぶんとえらそうな感じがする。美穂子は身を縮こまらせた。
「ふうん……じゃあ、この人はアシ仲間?」
「彼氏ですよ」
先生が口を挟んだ。
美穂子は仰天して「は?!」と声を上げた。
「付き合ってるんです」
先生は、しれっとそんなことを言う。
「うそーっ。三次元ダメって言ってなかった?」
小島さんが興奮して美穂子の袖をぎゅっとつかんだ。
「えっ、ちょっと」
美穂子はありったけの怒りエネルギーを込めて、先生を睨みつけた。
「大丈夫! 吉田さんに言ったら荒れるから、秘密にしとくよ」
小島さんはすっかり信じこんで、嬉しくて笑いが止まらないという感じ。
もう否定するのも大変になってきた。美穂子は「はは」と情けない笑みを浮かべる。
「だけど、美穂ちゃんはやっぱ面食いなんだね。彼氏、すごいかっこいいじゃん」
「かっこいいい?」
美穂子は思わず眉間にシワを寄せた。
「かっこいいよ! ずいぶん目立ってる」
「ありがとうございます」
ご機嫌な先生が、にっこりと微笑んだ。
「ふふふ」
小島さんは喜びが湧き出るようにニヤニヤした。