その件は結婚してからでもいいでしょうか
「あれ、美穂ちゃん」
めぐちゃんがやっと美穂子に気づいた。
「どうしたの?」
「……画材とか、取りに」
美穂子は呆然としながらも、やっとそう答えた。
「太宰、めぐちゃんはお前と心中したりしないから、帰れよ」
芥川が虫を見るような目で、転がるヒョロ男を見つめる。
「だって、めぐちゃん一緒に死んでくれるって」
「そりゃ、イベントの時だろ? 話に乗っかっただけ。本気にすんな」
芥川がえらそうに胸を張った。
「じゃあ、僕は誰と心中したらいいんだ」
ヒョロ男(話から推測するに、おそらく太宰治)が、周りを見回す。
あ、やばい。
目が合っちゃった。
「あなた、僕と死んでくれますか?」
まるでプロポーズするような甘い口調で、太宰が尋ねた。
よいしょっと立ち上がり、美穂子の方へ一歩踏み出す。
「ダメダメ、この子は。俺のもんだから」
先生が美穂子の体に回していた腕をぐいっと強める。
そこでやっと気がついた。
あれ、わたし、先生と接近しすぎじゃない?
「はーなーれーてーっ!」
美穂子は先生の腕を力一杯押しのけた。
先生は肩をすくめる。