その件は結婚してからでもいいでしょうか

「この子、嫌がってるじゃないですか。あなたのものなんかじゃないですよね?」
太宰が詰め寄る。

「恥ずかしがり屋なんですよ、この子」
「本当?」

太宰が泣き出しそうな顔で美穂子を見つめる。

これは、どっちって言った方がめんどくさくない?

「ど、どうかな?」
美穂子はふんわりした感じでごまかした。

「ああっ」
太宰が再び崩れ落ちる。「僕と死んでくれる運命の人だと思ったのに」

「きもすぎる」
芥川が言い放つ。「どんだけ入り込んでんだ、こいつ」

美穂子は思わず芥川をじっと見てしまった。

あなたも随分、きもい感じでしたよ、この間。
っていうか、今もパンいち。
きもいーっ。

美穂子の腕に鳥肌が立つ。

「まさかとは思うけど」
先生が気落ちしている太宰に話しかける。「太宰治なの?」

太宰がキッと睨み上げた。
「当たり前です! 見てわかりませんか?」

長いトレンチコートに、白いシャツ。よく見ると腕に包帯を巻いてる。

「ごめん。わかんなかった」
「『走れメロン』を書いた、太宰です!」
「メロン? フルーツなの?」

先生の顔が徐々に赤くなる。それから細かく震えだした。

「くく……」
こらえても、笑い声が唇の端から漏れてくる。
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