その件は結婚してからでもいいでしょうか
「できた。はい、どうぞ」
先生はスケッチの紙を一枚破ると、太宰に手渡した。
そこには太宰治らしき人物と一人の女性が、川に飛び込む寸前の姿。一目で二人が恋仲であることがわかる、そんな雰囲気。
「……まさか、『ぶんごう』のホンモノの作者」
太宰が震える声で尋ねる。
「違うよ。期待に添えなくて悪いけど」
「だって、そっくりっていうか。そのまんまっていうか」
太宰が興奮している。
「うまくかけてたらよかった。この漫画はなんどか読んだことがあったから」
「ありがとうございます」
頬を紅潮させて、太宰が頭を下げた。絵を胸に押し抱く。
「これで、あの子にちょっかい出すのは諦めてもらえるかな?」
「もちろんです。こっちの方が美人だし」
先生が「あはは」と笑う。
美穂子は心の中で「おい、なんだそりゃ」と突っ込んだ。
「ちょっと、あの人、何者?」
めぐちゃんが美穂子に囁いた。
美穂子の胸はまだドキドキと脈打っている。
「天才、だと思う」
美穂子はそう答えた。