その件は結婚してからでもいいでしょうか
「ごめん、美穂ちゃんっ」
土下座をすると、胸の谷間がばっちり見える。
「ど、どした?」
美穂子は驚いたが、すぐにめぐちゃんの背後にいる人物に目が吸い寄せられた。
「わたしの芥川(あくたがわ)が、家を追い出されちゃって」
「芥川?」
「芥川龍之介」
黒ずくめの男が、静かに頭を下げた。
「芥川龍之介デス」
「……同姓同名?」
美穂子は眉の間にしわを寄せた。
「違う。わたしが愛してるキャラ! アニメ見せたじゃん」
「覚えてないよお」
「彼、芥川龍之介なの。その役やってんの」
「役者?」
「違う違う。素人だけど、芥川龍之介なわけ」
「はあん?」
美穂子はその黒ずくめの男を見つめた。
「代表作は『わが輩は猫である』です」
芥川龍之介がカッコよくキメて言うので「バカなの?」と思わず口にしてしまった。
めぐちゃんがガバッと立ち上がる。
「わたしの芥川をバカっていわないで!」
「だって、猫のは夏目漱石じゃん」
「ちょっとボケただけだよ!」
芥川が「マジボケです」と口を出す。
「ほら、バカじゃん」
美穂子は芥川を指差した。
めぐちゃんは言葉にぐっと詰まったかと思うと「と、とにかく」と話をし始めた。