その件は結婚してからでもいいでしょうか

ペンを持つ指。
男性的な手の甲。
手首。
広い肩。長い腕。
黒い髪がかかる首筋。男性の割に線が細い。
それからシャープな顎。
描く時にはいつも、唇をきゅっと閉じる。
それから瞳。
彼の瞳には、違う世界が見えてる。
その世界を、彼はペンで私たちに描く。

いつのまにか夢中で、描くときの先生を描いていた。
何度も何度も、繰り返し。
頭の中で想像して、あらゆる角度から、あらゆるタッチで。

瞬く間に、白い紙が埋まっていく。

『人を見てると、描きたいって思う人に出会う。何度も何度も繰り返し、昼も夜も、想像して、考えて、自然と描きだす』

描いている間中、美穂子の胸の高まりは止まらない。
まるで先生と触れ合っているような、そんな錯覚に陥る。

『それが『恋をする』ってことだ』

美穂子はペンを床に置いて、描いた先生の姿を抱きしめた。

ああ、どうしよう。
この感覚。
多分、きっと、そう。

わたし、三次元の男に、恋をしてしまったんだ。

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