その件は結婚してからでもいいでしょうか
第三章
欲情してるだけですね?
幸いなことに、翌日からまたアシスタントの仕事が入っていた。
早朝、美穂子はアシスタント部屋に逃げてきたが、それでもこの悩ましい出来事からは逃げることができない。
先生の原稿が目の前にある。
この原稿を先生が見つめて、触れて、描いたんだ。
ちょっとでもそんなことを考えると、美穂子の体の奥がもじわじわする。じわじわ、という表現が適切かどうかもわからないけど、初めてで、不思議な感覚だった。大好きな悠馬くんが、原稿の中から見つめているけれど、なんだかそれもどうでもいいような気がしてきた。
だって悠馬くんに触られたいだなんて、思ったことないもん。
消しゴムをかけていた美穂子の手が止まる。
わたしは先生に触られたいって、思ってるの?
カッと顔に血が昇る。
何! 触りたいって。わたし、変態なの?!
美穂子はポカポカと頭を叩いた。
「お昼休憩しようか」
山井さんが声をかけた。
「お茶用意しますね」
美穂子はバクバクいっている心臓のまま、席を立った。キッチンに立つと、無意識に隣へ続くドアへと目が向く。
ガタガタッとドアのボックスが鳴った。
あ、このドアの向こうに、先生がいる。
美穂子は茶筒を置くと、両手で顔を覆った。
やばい。どうしよう。
向こうにいるってだけで、こんなにジワジワする。
完全に変態の仲間入り。