その件は結婚してからでもいいでしょうか
「え? 百合?」
小島さんの声がひっくり返った。
「ちがうちがう」
山井さんが笑う。
美穂子は変な汗をかいてきた。
山井さん、もしかして先生が男って知ってるのかな?
山井さんが、箸を持ったまま肘をつく。それからうっとりとした顔をした。
「先生の作品を心からリスペクトしてるの。だから先生だったら、全部捧げられるってこと。桜先生以外の人間は、対象として眼中に入ってないわけ」
「じゃあ、先生が自分のスカートを持ち上げて『触って』とか言ってきたら、触るわけ?」
小島さんが目をキラキラさせながら尋ねた。
とてつもなく生々しい会話。
美穂子と吉田さんの顔が、リンゴのように真っ赤になる。
「もちろん、それが先生の望みなら触るよね。それでもってイカせる」
山井さんがニコッと笑って、すごいことを言い放った。
「きゃーっ。山井さんの桜先生愛、半端ないいいーっ」
小島さんは箸を放り出し、床でゴロゴロ転がった。
「性別を超えて、先生を愛してるの。だから三年も、アシスタントを続けられるんだって」
山井さんが、誇らしげにそう言った。
「じゃあ、先生が男だったら?」
小島さんはもはやノリノリだ。
「そりゃ、イカせてくださいって言うわよね」
山井さんが壊れてきた。
美穂子はもうお弁当が喉を通っていかない。
この話では、完全にアウェーだ。