その件は結婚してからでもいいでしょうか
「行為が刺激的なのも重要だけど、キャラクターやストーリーがしっかりしてないと読んでもらえない」
八代さんが美穂子の手を握る。
「この雑誌は、絵が上手い人に描いてもらいたいの。美穂ちゃんにはぜひチャレンジしてもらいたい」
「でもでもでも」
美穂子はわなわなと震えだす。
ずっとアシスタントでくすぶっている今、これが大きなチャンスだってことはわかる。
でも無理だよ。できないよー。
「やればいいじゃないか」
先生が腕を組んだ。「やってみれば案外できるかも」
「ほら、与田くんもああ言ってる。与田くんが言うと重みがあるでしょ。だって彼、男なのにバリバリの少女漫画描いてるのよ。好きだの嫌いだの、苦手なジャンルなのにねー」
「はは」
先生が乾いた声で笑った。
「とりあえず、一本描いてみて。三十ページ」
「えええ」
美穂子はいよいよ追い詰められてきた。
「雑誌も置いてくから、研究して。とりあえずの締め切りは二週間後」
もう承諾してる体で、話を進められる。
「なんなら、与田くんに手取り足取り教えてもらえばいいから」
「八代さん!」
先生が大声をあげると、八代さんはお腹を抱えて笑った。