その件は結婚してからでもいいでしょうか
「じゃ、お願いします」
可愛くそう言うと、八代さんは立ち上がった。
美穂子はなんとか立ち上がったが、衝撃が強すぎて立ちくらみがする。
玄関でヒールを履いて、八代さんが振り返った。
「じゃ、またね。与田くん、美穂ちゃんのサポートお願いします」
「はいはい」
先生は軽く笑った。
ドアが開いて、日差しが入る。
八代さんが舞い上がる髪を抑えて、最後に振り返った。
「……与田くん、久しぶりにご飯でもいく?」
八代さんの目が、先生を見上げる。美穂子は横に立つ先生をつられて見上げた。
あれ、また……。
美穂子の胸が鳴る。
とくとくとく。
「うん、まあ。そろそろ、いい頃かもな」
先生はそう言うと、笑い返した。
「了解。連絡するね」
八代さんは手をあげると、颯爽と部屋を後にした。
先生が一つ息を吐く。それから美穂子を見下ろした。
「よかったね。頑張って」
とたんに美穂子の膝がガクガク言い出した。
「できませんよ〜」
泣き声に変わる。
二人でリビングに戻ると、否が応でも積み上げられたDVDが目に入った。
ああ、泣いちゃう。
美穂子はDVDを見下ろして、立ち尽くした。