その件は結婚してからでもいいでしょうか
美穂子の目からはらはら、涙がではじめた。
先生が「ああ、もうっ」と呟く。
「やっぱり泣いた」
美穂子は自分の涙の訳がわからない。
先生が酔ってる女の子なら、誰にでも手を出しちゃうってことと。
先生が理性に勝って、美穂子に手を出さなかったこと。
どっちが悲しいかって言ったら、どっちも悲しい。
美穂子は唇を噛む。
「先生は、わたしに欲情しただけなんですね」
そう言った。
「欲情って……そう取られても仕方はないと思うけど。じゃあ、どうしたらよかったってんだ」
先生がため息をついた。
「すいませんでした」
美穂子はぺこんと頭をさげると、ベッドから降りる。
立ち尽くしている先生の横をすり抜け、リビングへと出た。メガネを取って、手で涙を拭う。
わたし、すごくめんどくさい女。
いくら三次元で恋愛をしたことがないとしても、それだけはわかる。
でもどうしたらいいかわかんないよ。
涙ばっかりが出てくるんだもん。
そこで、先生に手を腕をとられた。美穂子は振り向く。
本当に申し訳なさそうな先生の顔。
わたしがこんな顔にさせてるんだ。
「ごめん、ほんと。美穂ちゃんを傷つけた」
美穂子は首を振る。
「もうこんなことしないから。約束する。でもそのかわり、あんな風に無防備にならないで」
先生が情けなそう言う。「俺も男だから」
美穂子は頷く。
「それから」
腕を掴む先生の手に力がこもる。
「あんなこと、他の男の前でも絶対にやっちゃダメだからな」
そう言った。