その件は結婚してからでもいいでしょうか
第四章
鶏が先か、卵が先か
「すごいチャンスじゃない?」
小島さんが声をあげた。
「そうなんですけど、できる気がしないんです」
美穂子は深くうなだる。「だって、したことないもん」
アシスタントのみんなは「そりゃそうだ」と頷いた。
「ビデオかなんか見たら?」
山井さんが小首を傾げながら言う。
「見てみましたけど、耐えきれず消しちゃいました。だって生々しいもの」
「そりゃ生々しいわな。動物と動物のぶつかり合いだから」
「どうしたらいいですかね?」
「まあ、やっちゃうのが一番」
経験豊富の山井さが、さらっと言い放った。
アシスタントのランチタイム。
先日から、どうもこの手の話題になりがちだ。
「……それはちょっと」
美穂子はだんだんと体が小さく丸まっていく。どう考えてもこの仕事、できる気がしない。
「先日言ってた漫画家さんは?」
小島さんが意味ありげな視線を送ってくる。「好きなんでしょ?」
美穂子の脳裏に、先生の低い声がパッと蘇った。
頬が熱くなる。
「そそそんな、無理、です」
美穂子は顔の前で、猛スピードで手を振った。
「『抱いて』って言えば、大抵の男はオッケーすると思うけどなあ」
小島さんが腕を組む。
「でもそれじゃあ」
美穂子は考える。
きっと私は、それだけじゃ嫌なんだ。