その件は結婚してからでもいいでしょうか
二日間のアシ作業が終わって、夜、隣の部屋に戻る。
気まずい。
先日のこともそうだし、みんなに焚き付けられたこともそう。
どういう顔をしたらいいかわからない。
リビングに入ると、先生は机に座って作業していた。美穂子を見ると「おつかれさま」と笑顔になる。
「おつかれさまでした」
頭を下げて、再び頭を上げると、先生はすでに美穂子を見ていなかった。すごい集中力だ。
近くに寄ると、『花と流星』のペン入れの最中。
美穂子は邪魔をしないようにそっと下がった。
夕ご飯の支度をして、二人分をお盆に乗せる。
「先生、ごはんにしませんか?」
美穂子はおずおずと声をかけた。
「……あ、ごはん?」
先生が顔を上げる。
「食べる食べる」
先生が立ち上がって、ソファを背もたれにして、テーブル前に座り込んだ。
「おお、鳥の照り焼き」
先生が満面の笑みを見せる。「いただきます」
「いただきます」
美穂子も箸を手に取った。
ちょっとした沈黙。先日の一件以来、どことなく空気がぎこちなくなる。
「漫画の方、どう?」
耐えかねたのか、先生が口を開いた。
「研究した?」
美穂子は首を振った。
「全然です。まったくわかりません」