その件は結婚してからでもいいでしょうか
先生が「なるほど」と頷く。
「そりゃ、経験してみないとわかんないな」
「ですよね?」
「まあね」
「じゃあ『エロメン』しかないです?」
「それはダメ」
美穂子はバタンと床に倒れた。
フローリングの木目を間近に見ながら「もう無理……」と呟く。
「そんなどこの誰かもわかんない野郎とするなら、俺で手を打つか……」
美穂子の胸がどくんと鳴る。
はっと顔を上げた。体をねじり先生を見上げる。
目があった。
先生は自分で自分の発言が信じられないというように、目を大きく見開いている。
「あ、いや、俺も懲りずに、ほんと馬鹿な男だな。はは」
先生は顔を真っ赤にして、視線をそらした。
「まさかね、そんな」
「先生が、してくれるんですか?」
考えるよりも先に、口に出していた。
「えっ」
先生が絶句する。
心臓がギリギリ痛い。速い脈で指先が痺れてきた。
「先生が、抱いてくれるなら」
喉が絡む。
指の痺れはやがて体の震えへ。唇が乾き、呼吸が浅くなる。
「わたし……」
「いやっ、冗談が過ぎたな」
先生が遮った。
「ごめんごめん。こんな冗談、美穂ちゃんは嫌いだよね?」
先生は残りのごはんをかきこむと、慌てて立ち上がった。
「……そうですね。嫌いです」
美穂子がそういうと、先生は肩の力を抜いた。
「ごめん。こういうのは、好きな人とした方がいいから。特に最初はね」
先生はデスクに座ると、「ごちそうさまでした」と手を合わせた。