その件は結婚してからでもいいでしょうか
美穂子は身体を起こして、小さく一つ息を吐く。
「先生、今からアシスタントのお部屋借りてもいいですか? ちょっといろいろ描いてみたいんで」
「ああ、もちろん」
先生はこちらを見ない。
美穂子は立ち上がり食器を片付けると、逃げるようにアシスタントのお部屋へと向かった。
真っ暗な部屋。
美穂子は自分のデスクに座ると、パチンとデスクライトをつけた。白い光が暗闇をほのかに照らす。
がくんと力が抜け、おでこをごちんとデスクにぶつけた。
拒否られた。
想像以上に堪える、こういうの。
「はああ」
美穂子は大きなため息をつく。
「そりゃね、わたしもエッチするの怖いし、嫌悪感もあるし。拒否られて安堵するところもあるんだけど。でも」
唇を噛む。
「抱かれるなら、どこぞのエロメンよりも先生がいいよ」
涙があふれ出した。
ひとしきり声を出して泣いた。この間は、先生にエロいことをされて泣いて、今日はエロいことをしてほしくて泣いてる。
「わたし、馬鹿みたいぃ」
泣いて泣いて泣いて。メガネに涙の粒が溜まっていく。
もう何もでてこないっていうぐらい泣いて、それから目をこすり頬をぬぐった。
先生に拒否されたけど、女性向けエロ漫画は描かなくちゃいけない。
どうしよう。
美穂子は白い紙に、なんとなくいろいろを描き始めた。