その件は結婚してからでもいいでしょうか

「うーん」
先生が唸る。

「絵が綺麗すぎるってところかな。綺麗すぎて現実的じゃなくなってるのかも」

先生が「美穂ちゃん、顔を上げて」と声をかける。

「ほら見て」
先生は首を勢いよくふった。黒髪がバサバサっと乱れる。

「髪は人が動けば乱れる」
自分の髪を触った。「手触りも、ツルツルとは限らない。人によって違う。ゴワゴワしてたり細かったり」

「触ってみて」
先生が言った。

美穂子の胸がどきどきし始める。

髪を触るって、なんだろ、すごくときめく。

躊躇している美穂子を見て、先生が「洗ってあるから綺麗だよ」という。それから先生が頭を差し出した。

「じゃあ、失礼します」
美穂子は幾分か頬を紅潮させて、そっと先生の髪の毛に触った。

あ、さらっとしてる。髪の毛は細くて、ふわっとシャンプーの香りがする。

どきどきどき。
鼓動が自分で聞こえるぐらいだ。

美穂子はパッと手を離した。

先生は、今度は自分の腕をまくって美穂子に差し出す。

「人の肌も一種類じゃない。すべすべの人、ザラザラの人。皮膚の下には筋肉があり、血管が巡ってる。その血管には血液が流れていて、人を動かしてるんだ」

「触って」
先生が言った。
< 93 / 167 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop