その件は結婚してからでもいいでしょうか

先生がもう片方の腕を伸ばし、美穂子の涙を拭う。

先生の指が頬に触れると、じわじわする。身体の奥が熱くて、じわじわ。

美穂子は先生の目を見つめた。

「先生、わたし……」

先生が美穂子の頭を撫でる。

「わたし、わたし……」
嗚咽が漏れる。

先生の大きな手が、美穂子の首の後ろに回った。先生が身を乗り出す。

そして、先生の顔が近づいた。

え? 何?

ガチャガチャガチャッ。

突然玄関の鍵を開ける音がした。

あと少しで触れそうだった唇が止まる。

「うわ」
先生がパッと美穂子から手を離した。

先生の顔が真っ赤だ。

「せ、せんせ……人が」

先生は我に返り「まずいっ」と小さく叫ぶ。慌ててデスクライトを消すと、部屋はとたんに真っ暗に。

がちゃがちゃ椅子にぶつかりながら、二人で机の下に潜り込んだ。

「先生、足、もっと引っ込めないと!」
「これ以上、無理だよ」

机の下はとてつもなく狭い。美穂子は先生の胸に抱かれるように、なんとか隠れた。

美穂子は爆発しそうだ。先生の胸に顔を埋めて、先生の匂いがする。
三次元男子なのに、ぜんぜん臭くない。むしろ、たまらなく惹かれる匂い。

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