その件は結婚してからでもいいでしょうか
先生が一つ息を吐いた。
「ああ、やば」
つぶやく。
「いかんいかん」
まるでおじいさんのような言い方。
「男はさ、好きじゃなくてもそういうことできるけど、女の子は違うと思うんだよね」
しんと静かな空気に、先生の低い声が鳴る。
「だから今は無理しなくてもいいんじゃないかと」
美穂子は「先生も、好きじゃない人とできるんですか?」と尋ねる。
「……できるよ。これまでだってそうやって女の子泣かしてきた。でも途中で我に返ったりするんだよ。それで虚しくなったりする。その虚しさってさ、うまく言い表せないんだけど……カラダだけ気持ちよくても、涙が出てくるぐらい悲しいんだ」
先生が優しく頭を撫でる。
「美穂ちゃんには、幸せな経験をしてもらいたい。だから好きでもない人と、仕事のために経験するなんて、やめた方がいい」
先生が美穂子の肩をそっと押しやる。それから外に這い出て、あぐらをかいた。前髪をかきあげ「ふう」と大きな息をはく。
「ああ、まいったな」
先生が言った。
美穂子も机の下から這い出て、先生の隣に座った。
「先生がわたしを好きじゃなくてもいいです」
美穂子は先生の袖を握る。
好きじゃなくても、エッチしたら気になりだすってこともある。小島さんがそう言ってたじゃない? それなら……もしかしたら……。