君のカメラ、あたしの指先
 有紗の声ではない。こんなに低くないし、無愛想じゃない。

 そもそも女の子の声じゃない。

 じゃあ男子、なんだけど、ちょっと振り返る勇気が、ない。

 だって、声をかけてきたということは。
 あたしの独り言を聞いていた、ということで。


「颯爽と現れるってどうやるの? とりあえず声かけてみたけど」

 ギ、ギ、ギ。
 油をさしていないブリキロボットのような動作で、あたしはゆっくり振り返った。

 引き戸にもたれて、腕組みをするその青年は――

「やま、だ、くん」
「お疲れ」


 回想シーンに出てきたあの人。瀧川の友人、「山田」くんだった。

 なんで。どうして。こんなとこに。
 聞きたいことは山ほどあるけど口からは何も出てこない。


「えっと、どうしたの? 誰かに用事?」

「『どうしたの?』は俺の台詞なんじゃないの?」

 笑いを噛み殺すような表情で、彼はそう切り返した。

 顔にぶわっと血がのぼる。聞かれてたってことだ、あたしの妄想を最初から。
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