君のカメラ、あたしの指先
 あたしは思わず引っつかむ勢いで彼の手首を抑え込んだ。

「……なに?」

 再び同じ問を投げられる。思ったよりも近く、自分の耳元で声がして、あたしは慌てて手を離した。

「ごめん、じゃなくて、でも、えっと」

「吉野さんの独り言のことなら誰にも言わないから安心して」

「そうだけどそうじゃなくて!」

「俺、吉野さんに話があってさ。ここじゃなくて吉野さんのところの部室でしたいから、これ早く終わらせたい」

 山田はぴらぴらと手に持った資料を泳がせた。

「はあ……」

 なんであたしの部室じゃないといけないんだ。

「なんでも。部活の話も関係してるから」

「部活の話『も』?」

「いちいち余計なところに反応しなくていいの」

 余計じゃない。大事なとこだ。
 それって本題は部活じゃないってこと?

 助詞の使い方は重要なんですよ山田くん、他意がないなら変な言い方はやめてくれますか。

 そう言おうと思ったのに、すでに彼は話しかけられる雰囲気をシャットアウトしていてあたしは作業を再開する他なくなった。
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