君のカメラ、あたしの指先
「今のが理由一つ目」

「まだあるのね」

「もう一つは……サッカー部女子マネの大島ってやつ、知ってる?」

 有紗の話に出てきた子だろう。顔は知らないけど、と付け足して首を縦にふると、山田が険しい顔のまま続けた。

「あいつ、かなりしつこいというか、性格が……」

「古典的悪女ってやつでしょ」

「……古典的悪女って言葉は初めて聞いたけど、まあそんな感じかな」

 あたしの造語だからそりゃそうだ。意味は通じたからいいだろう。

「あいつの武器は『部活』という趣味の延長みたいな楽しい時間を共有していることだ。部活は時に『同じクラス』よりも威力を発揮することがある」

「同感」

「その点から見ると……結城と優馬の一番のすれ違いの原因は、接点の少なさだと思うんだよね」

「ああー。確かに。なるほどね」

 お互いに気を遣いあって、緊張しあって、話せない。確かにそれが一番の原因のような気がする。

「俺が吉野さんとつき合いはじめたら、自然と彼らの接点も増えるでしょ。一緒にいることが自然になりさえすれば、あとは時間の問題かな。と。どう? 悪くない案だと思うけど」


 悪くない。たしかに悪くない。
 けど……

「それ、あたしにメリットはある?」

 有紗の恋が成就するのは、確かにあたしのメリットだ。一番近いところに格好のネタができる……げふんげふん。ではなくて、親友の幸せそうな顔を見られる、これほどいいことは無い。

 無いけど、フリというのは結構大変だ。小説の中ではバレバレな嘘をついてもスルーしてもらえるかもしれないけど、現実はそうはいかない。
 
 有紗は変なところで感が鋭いし、瀧川だってそう簡単に騙されてはくれないだろう。

 激しい追求を受けた時、あたし自身にメリットやモチベーションがないとあっさりばらしてしまいそうだから。

 それに……
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