君のカメラ、あたしの指先
 再びカメラに視線を落として、山田はそれをいじり始めた。

「どう?」

「うう……」

「悪くないと思うけど」

「ううう……」

「何より結城のためでもあるよ?」


 なせだ。
 いつ立場が逆転したんだ。

 随分と余裕そうな言葉遣いになった山田は、何がそんなに楽しいんだかニコニコしながらカメラを触っている。
 まるであたしがその言葉から逃れられないのを知っているかのように。


「だいたい…………カメラ弄りながらそんな話するって、どうなのよ?」

 負け犬の遠吠えみたいだ。自覚はある。
 
 でも、あたしに向かって話しかけているんだか、カメラに向かって話しかけているんだかまるで分からない。それが何となく嫌だった。
 
 一瞬の静寂が、あたしと彼の間に横たわる。
 
 教室に降り注ぐ、金色の夕日が眩しかった。夕日は彼の表情に光と影を作っていた。

 少し見とれてしまったなんて……口が裂けても言えない。


「……それもそうだね」


 あたしの痛烈な批判を受けて、山田は静かに机の上にカメラを置いた。


「で、どう思う? 悪い話じゃ、ないと思うけど」


 真っ直ぐで曇りのない視線が、あたしを射抜いた。
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