君のカメラ、あたしの指先
「はー。あんたそれ、今更気づいたの?」


 真っ赤になって有紗はこくん、と頷いた。
 一つに結われたポニーテールの髪の毛が、それに合わせてさらさら揺れる。
 なんですかこの、可愛い生き物は。
 

「今までは……確かに、少し話せたら満足だったし、窓からサッカー部の練習してる姿が見えればそれだけで胸がいっぱいだったの。でも……」


 コップを持つ彼女の手が、震えているのが見えた。


「走った後にキラキラの笑顔をしてた優馬くんの、その顔が……すっごく嬉しかった、はずなのに」

 伏せた目をゆっくりと瞬かせる。ぽたり、と雫が彼女のスカートにシミを作った。


「その笑顔を、私に向けてほしいって、思っちゃったの……よくばり、だね」


 あはは、なんで泣いちゃってるんだろ、といいながら、有紗はごしごしと手の甲で涙を拭った。あたしはただそれを、眺めることしか出来なかった。
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