サトウ多めはあまあまデス
 部屋に入った佳喜は「お兄ちゃん…か」とつぶやきながら机に座るといつものように便箋を出す。

パラパラと日記のようなものをめくって止まったページを暫く凝視する。

「これじゃなきゃダメなのか…。このページは飛ばしても…。」

 つらそうに絞り出した声と共にページをめくろうと手をかける。
 しかし手を動かせないまま佳喜はページを凝視し続けた。

 そして観念したようにページを変えずに便箋に言葉を綴り始めた。

 丁寧に優しく、しかし時折つらい顔をして書き上げた手紙を封筒にしまい切手を貼るとバッグに入れる。

 下に降りるとソファにいる心愛を目の端に捉えた。

 今回は忘れたふりをしてしまいたかったが、そうもいかない。
 気付かれないうちに近寄ると素早く体に手を回して頬に唇を寄せた。

 どんなに素早く済ませようと甘い香りと柔らかく華奢な体。
 それに小さくて可愛らしい頬。

 それを否応なしに感じて苦痛にならないように努める。
 いつものことだ。

「可愛いココ。コンビニ行ってくる。」

 されるがままの心愛は頬を赤らめて頭をコクコクと動かして返事をした。

 されるがまま。なんて能天気なんだ。
 そう思ってわざと耳元でささやく。

「何かデザートでも買ってきましょうか?お姫様。」

 それでそのデザートに毒を入れたとしても食べるんだろうか。
 間違いなく疑いもせず食べるだろう。
 何も誰も疑わず周りは皆いい人。

 能天気なお姫様は頬を膨らませてふてくされ顔だ。

「お姫様なんて思ってないくせに。でもレアチーズ食べないな。コンビニの小さくて美味しいやつ。」

「分かった。じゃ行ってくる。」

 頭を軽くグリグリする。顔を見なくて済むこれは楽だった。

「うん。気をつけて。」

 不意に離れようとしていた体に腕を回されて心愛の方へ引き戻されると心愛から頬に軽いキスをされた。

 初めてだった。

 それほどまでに気を許しているということなのだろうか。

 目眩を感じながら悟られないように玄関に向かった。

 家から随分離れると安堵して本音がこぼれる。

「あいつどれだけ家族が大事なんだ。いつまで…いつまでなんだ。」

 つらく絞り出した声は夜の闇に消えてしまった。
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