恋の神様におまかせ♪


まあ稲穂のことだから、約束を放棄したりはしないだろうし、どこかで隠れてみてるんだよね。


私は隼人に向き直って、目を合わせる。


「……そっちから来てくれると思わなかった」


入って、と言われたけど、首を振る。

だって入ったら、また襲われる。


「……入れって」


「ちょっ、と!離してよ!」


手を捕まれて、無理矢理中に引き込もうとする。

私は必死に抵抗したけど、やっぱり力では敵わなくて、中に引っ張りこまれそうになる。


稲穂……っ!


私は目を閉じて、心の中で叫んだ。


すると、


「わっ……、?」


隼人の手の力が急に抜けて、後ろに転びそうになった。

隼人の顔を見上げると、無表情で光のない目で私をみていた。

その目から、ポロリ、と涙が一筋零れた。


「……隼人?」


「………」


隼人は無言のまま、一人で家の中に入っていった。


私は暫くそこに立ち尽くしてから、稲穂を呼んだ。

近くにいるはずだと思ったから。


でも、稲穂は姿を表さない。







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