霞村四丁目の郵便屋さん
居残りは自習形式で、プリントを済ませた生徒から帰ってもいいと言われている。


「みやび、どこを習ってないんだ?」

「えっと……この辺りの仮定法。でも今日の授業でなんとなくわかってきたかも」


居残り組という特殊な団結力も手伝ってか、みやびと俺はいつの間にかごく自然に会話を交わしていた。


「おぉ、そうだ。合ってる。みやび、英語できるじゃん」

「瑛太くんって、居残りなのに、ずいぶんできるんだね」


みやびに初めて『瑛太くん』と呼ばれて、一瞬息が止まりそうになった。
それはまるで、遥に『瑛太』と呼ばれたような錯覚を起こしてしまったからだ。


「いや……純一よりは、できるかな。あはは」


プリントをやり忘れただけで、できなかったわけじゃない。
医学部を目指していた俺は、それなりに勉強もしてきたつもりだ。


そう言うみやびも英語は得意らしく、あっという間にプリントを済ませ、居残り組では俺たちが最初に教室を出た。
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