霞村四丁目の郵便屋さん
「俺はいいよ。みやびが濡れちまう」


遠慮したのに、彼女は首を振る。


「私、そんなに薄情じゃないよ」

「それも、そうか……」


もし逆の立場でも、自分だけ傘をさすなんてできないだろう。

さすがに俺より十五センチくらい背の低い彼女に持たせるのははばかられて、みやびから傘を受け取り、できるだけ彼女が濡れないように気を配りながら歩き始めた。


透明のはずの雨は、体に触れるたびにその存在感を示してくる。
冷たい温度と微かな質量は、こうして触れてみなければ見るだけではわからない。


「If it had not been for your help, I couldn't have done the work.」

「はっ? 今、なんて言った?」


さっきやったばかりの仮定法を使っていたような気がするんだけど……。


「瑛太くんの助けがなければ、今日のプリントはできなかった、かな。瑛太くん、ありがとう。私、すごく緊張してたの。本当に助かった」

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