霞村四丁目の郵便屋さん
がらがらの車内で一番うしろの席に座った瞬間、硬いシートがギギギッと妙な音を立てる。
それはおそらくこのバスが古すぎるからだ。


「瑛太くん」


ひと席分離れて座ったみやびが、俺とは反対の方に重いカバンを下ろして、ハンカチを差し出してくる。


「えっ? あぁ、大丈夫だから」


みやびの視線は俺の左手に向いていた。
傘から少しはみ出していた腕が濡れていたのだ。


「ダメだよ。風邪ひいちゃう。霞村には病院ないんだから」

「えっ……」


みやびのひと言に心臓がドクンと音を立てる。



『俺が遥の病気治してやるからな。遠くまで行かなくていいように、霞村に病院作ってやる』


中学二年の夏休み、俺は隣町の診療所まで遥についていった。

喘息持ちだった遥は定期的に薬をもらいに行かなくてはならなかったから、その付き合いだ。
無論、暇を持て余していた俺が勝手についていっただけだったのに、遥は大喜びしてくれたのを覚えている。
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