霞村四丁目の郵便屋さん
今思えば『病院を作ってやる』なんて、よくもまぁ大きな口を叩いたものだ。

でも、決していい加減な気持ちじゃなかった。
本気で医者になって、遥を助けるつもりだった。

そのときの遥のうれしそうな顔が、一瞬頭をよぎった。


「瑛太くん、どうかした?」

「あっ、ううん。ごめん、やっぱ借りる」


俺が素直にハンカチを受け取り濡れた制服を拭きだしたとき、俺たちふたりだけを乗せたバスが発車した。

少し汚れたバスの窓にはバチバチと雨粒が当たり、激しく飛び散っている。
その様子を見ていると、あの日を思い出しそうになって慌てて口を開いた。


「みやび、英語得意なんだね」


習っていないと言っていたくせして、単語はほとんどマスターしている様子だったし、ちょっと教えるだけですぐに問題を解いていた。


「それほどでもないよ。国語のほうが好きなの」


そういえば、遥もそうだった。

娯楽の少ない村で、彼女の趣味は読書。
本屋もなくて通販ばかりだったけど、宅配便が届くたびに彼女の部屋の本棚は潤っていった。
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