霞村四丁目の郵便屋さん
「転校生が来るんだってさ。しかも霞村村民」


純一の放った言葉に、一瞬手が止まった。

霞村に?
霞村は俺の住んでいる村だ。

この高校からバスで一時間以上山の方に向かって走ったところにあり、過疎という言葉が当てはまりつつある。
若者がこぞって高校で寮生活を選んで出ていってしまい、なかなか戻ってこないのもあり、毎年人口を減らしている。

最近では、村に唯一ある小さな薬局が廃業するとかなんとかって、けっこう大問題になっているほどで、この高校に通っているのは俺だけのはず。

そんな不便な村にわざわざ越してくる人がいるんだろうか。


「お前、かわいいって言ったよな。女ってこと?」

「おぉ、そう。昨日挨拶に来てて、見たヤツがいるんだってさ」


『霞村』と聞いただけで急に興味が湧いてきた俺は、いつしかプリントをやるのを忘れていた。


「席に着け」


すると、いつも寝癖がついた髪を惜しげもなく俺たちに披露してくれる、担任のさとこじこと、佐藤(さとう)幸次(こうじ)が、やっぱり左うしろの髪をピヨンとおっ立てて入ってきた。
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